Unification could be ripe for the picking

http://physicsworld.com/cws/article/news/37295
多くの物理学者は、少なくとも人類が測りえるエネルギー領域において、アインシュタインが提唱した特殊相対性理論は常に正しく物理現象を記述していると信じて疑ってもいないし、それは実験事実も裏付けている。ただ、この記事で紹介している論文では特殊相対性理論の実験検証の精度を突き詰めれば、その破綻が見える可能性を示唆し、主に超重力場のような特異的環境における特殊相対性理論の破綻と、それに変わる新しい時空の対称性を扱う理論構成の動機付けのための、実験的検証方法の提案を試みている。現在に至るもブラックホールや宇宙誕生初期における重力相互作用が支配的な環境下における時空を記述できるような理論体系は完成されていない。それは、素粒子理論における基本的理論体系である『標準模型』の単純な拡張としてはうまくいかないと考えられるためである。というのは、そもそも『標準模型』は特殊相対性理論が正しく、かつ重力相互作用は無視した前提を課しているが、超重力下では、重力の量子効果が顕著に現れるため、そのどちらの前提も成り立たなくなっていると多くの物理学者は信じているからだ。
特殊相対性理論は、簡単に言ってしまえば時空間の対称性を定式化している。ニュートン力学では時間と空間は絶対的なものとして、背後に固定されているもとで物体の運動則を導いている*1が、特殊相対性理論は時間・空間は互いの慣性系に移りえるもの、つまり相対的でしかありえないと言う。時空の変換をローレンツ変換といって、素粒子理論の基礎を成している場の量子論*2はこの変換性のもとで不変性(ローレンツ対称性)を保つように構成されている。ローレンツ変換不変にすれば、あらゆる慣性系に統一的に扱うことが出来るため、相対論的効果が入るような極めて高速度で移動する粒子の運動を記述することも可能となる。

特殊相対性理論光速度不変の原理と相対性原理のもとで自然に導かれる結果であり、実験的にも非常に高い精度で検証されている。例えばジェット機を用いた2つの異なった慣性系における時間のローレンツ収縮(正確には”ローレンツブースト”という)を測定する方法や、宇宙線と上空大気との衝突で生じる高エネルギーミュー粒子の寿命の延び、もしくは核エネルギー放出に伴う質量欠損なんかも、特殊相対性理論から帰結されるエネルギーと質量の等価性に基づいた予言と驚くような精度で一致している。よくある『相対論は間違っている』系の話はおもに光速度不変の原理を疑うものが多いが、著者らは相対性原理を仮定した実験方法を問うような考えを提唱している。相対性原理は異なる速度で慣性運動する慣性系の運動法則の不変性を仮定しているが、これはあくまで理想的環境の話であり、実際の実験では重力効果は考慮せずに慣性系として扱っている。仮に背後の重力効果に依存した何らかの寄与が影響するとしたら、重力下の特殊相対性理論として、有名なエネルギーと質量の等価性は
E=mc^2+a_0
と修正を必要とするかもしれない。ここでa_0と表されている項が重力補正を示す。これまでの特殊相対性理論の検証実験は、重力補正を無視しているため、実はa_0の寄与が見逃されている可能性があるというのが論文の主張するところだ。だから、非常に微妙なレベルでは、太陽と地球間の重力相互作用の微妙な違いから、季節による結果のずれが見えるかもしれない。彼らの評価によれば、現在知られている実験精度より10^{30}倍の大きい誤差が含まれている可能性が残っているらしい。

これらの評価がどの程度信頼性があるのか定かではないが、しかし考え方としては興味深い。恐らく重力補正は量子効果として扱うべきだろうし、となると時空を量子的に扱うことのできるループ量子重力理論の実験的検証ということにも繋がる。ループ量子重力の検証は重力波観測とか、CMB(宇宙背景輻射)観測の解析とかでも(一部の人たちが)さかんに主張しているけど、この手の、実験室の枠内で行うことのできる検証実験を考えることは十分意味があるように思う。標準模型の高精度検証や重力波観測でもそうだけど、高エネルギー側だけでなく低エネルギー領域における超精密測定は、既存の理論を超える物理探索の地味だけど重要なものなんだ。

*1:ある意味背景依存ともいえる

*2:古典的量子力学特殊相対性理論を組み込んだ理論体系。粒子を調和振動子の固有モードの無限個の重ね合わせ(場)として記述することで粒子の波動性を量子化、つまり点粒子として扱うことができる