Did our cosmos exist before the big bang?

Did our cosmos exist before the big bang? | New Scientist

宇宙の始まりについて物理学者が語るとき、常にビックバン以降からはじめる。なぜならそれ以前の状態、つまり宇宙誕生以前の状態を記述できる正当な理論はこれまでのところ考え出されていないためでもあるし観測もできないから。ただ、ビックバン理論を多くの人が信じて疑わないのは、ハッブル赤方偏移の観測から宇宙背景放射(CMB)の最新観測に至るまでの詳細な天文観測の結果から我々の宇宙は膨張過程にあることが確かめられているため、自然な推察として、時間をさかのぼれば宇宙初期はきっとすべての物質(ダークマターを含む)が一点に凝縮されている極限状態があって、そこで宇宙が始まったと考えられるからだ。しかし最近、宇宙物理学及び相対論や重力理論で有名なアシュテカらが提唱しているモデルは、ビックバン理論はそもそも必要ないという。
彼らはループ量子重力理論とよばれる、背景非依存な理論体系を基礎に初期宇宙の物質密度と量子重力効果の数値計算を行った。時間を逆回しにして宇宙初期の超高密度・高温状態をシミュレーションした結果、プランク密度(5.1×10^96 kg/m^3)まで宇宙が潰された瞬間、量子効果によりとてつもない斥力が生じてインフレーション的な膨張が見られたという。これまでのビックバン理論では「地平線問題」や「平坦性問題」とよばれる観測結果と理論予想との矛盾を説明するために、人為的にインフレーションなる加速度的膨張を宇宙誕生の10^-34秒後付近に仮定して解決を図っているんだけど、これまではこのインフレーション膨張を満足に説明できる理論体系は知られていなかった。アシュテカらの提唱する「ループ量子宇宙論」なる理論はインフレーションを予想する。

この「ループ量子宇宙論」は量子重力を背景時空の歪みに依存しない形で扱うことが出来る「ループ量子重力」をもとにしている。宇宙初期の超高密度領域においては、これまでの相対論では記述できないような非常に強い重力場が支配的になっていると考えられている。このような特殊な重力場ブラックホール特異点付近も似たような状況と考えられるが)では重力場を量子的に扱うことでカバーしようと試みられている*1。その一つの理論体系が「ループ量子重力」といういわば、時空を散逸的なメッシュ構造をもった幾何構造と考えて各点に線が複雑に絡み合って出来ていると考える重力場量子化の方法。ここでいう量子化というのは各線や面の長さや体積を対応させる。この理論の最大のメリットは背景の幾何を仮定することなく、むしろ自然に導くことが出来る点にある。重力の量子化を実現できると目されているストリング理論では、背景の幾何構造を固定しなければ何も計算することが出来ない点で背景依存と言われる。その点「ループ量子重力」は時空構造すら決定でき、そのうえ古典的なアインシュタイン重力を導出したり、スカラー場を内包していると考えられている。背景時空によらないということは、宇宙初期の極限状態においても重力場や他の量子場を厳密に記述できることが可能と信じられていて、しかも彼らの結果ではインフレーションすら導くことに成功したということで、一部の熱狂的信者の間では熱が上がっているようだ。

さらに、これまでのビックバン理論で懸案だった特異点を回避することができたことも大きいらしい。ビックバン理論にあるような物質が一点に凝縮する状態に達すると、理論に特異点が存在してしまい、それ以前の状態を予想することが不可能となる。彼らの結果はプランク密度に達すると「跳ね返り」が起こって、また膨張を始めることで特異点は自動的に回避される。
「ループ量子宇宙論」は、すなわち、我々の宇宙が永久的に膨張や凝縮を繰り返しているという理論的予想をはじめて立てることに成功した。

では、この「ループ量子宇宙論」を実験(観測)的に確かめるにはどうしたらいいかはいくつかの案も出されている。一つはCMB観測。インフレーションの名残がCMBの偏光に見えているかもしれない。もう一つは重力波観測。重力波には宇宙すべての歴史が刻まれていると考えられ、もし仮にループ量子宇宙が予想する跳ね返り現象があったのなら、必ず重力波にその証拠*2が残っていると予想されている。重力波が観測されれば、この理論を含めた宇宙物理学全体に大きな進展をもたらすはずだ。

*1:つまり重力子の量子効果が無視できなくなり古典的近似は成り立たなくなっている

*2:いわゆるホログラフィー