High-Energy Collision of Two Black Holes

今週のPRL:Phys. Rev. Lett. 101, 161101 (2008)
2つの相対論的速度で衝突するブラックホール(BH)から放出される重力波のエネルギーに関する数値計算の論文。

これまで知られている2つのBHが相対論的速度(光速の96%)で衝突した際に放出される重力波のエネルギーはトータルエネルギーの29%という上限値がホーキング*1及びペンローズ*2によって課せられていたが、著者らの数値シミュレーションの結果はそれよりもファクター2だけ小さい14%となったとのこと。この結果は、しかし、摂動的解析結果*3とは一致している。ペンローズらは最も単純なアインシュタイン方程式の解であるシュワルツシルトブラックホールを用いたフラット時空上の計算だが、彼らの数値計算では時空の動的な時間発展を導入した結果であるため信頼性は高いと主張している。ただし、この論文でもある程度の近似を取り入れていて、BHのスピンと電荷を無視しているし、衝突は重心同士の正面衝突(インパクトパラメータはゼロ)のみでかつ2つのBHの質量は同じとしている。

著者の主張するところは、LHCで超微小なBHが出来た場合に予想されるエネルギーロスの評価にペンローズらの主張を取り入れてしまっているが、実は過大評価している可能性があると警告するもの。しかし、このエネルギーロスはヒッグスの2γ崩壊と混ざってしまってファクターの違いだけじゃ結局区別できないじゃないかと思ったりもする。そもそも2γ崩壊の測定では新粒子の断定は困難と予想されているので、彼らが正しいにしろ間違っているにしろLHCでBHを探索することはほぼ不可能であることには間違いはない(根本的な問題点として彼らは量子効果を取り入れていない!)。最後のLHC云々は蛇足ですな。

*1:Phys. Rev. Lett. 26, 1344 (1971).

*2:Phys. Rev. D 66, 044011 (2002).

*3:Phys. Rev. D 46, 694 (1992).