Excess of electrons could point to dark matter

http://physicsworld.com/cws/article/news/36739;jsessionid=B1166B217EA36775C60F582033CB6A5F
先日紹介したPAMELA観測とはまた別の宇宙線観測によるダークマター探索の結果の紹介。今回は、南極大陸において高エネルギー(数百GeVから数TeV)の電子線を捕らえてそのスペクトラムを調べる、Advanced Thin Ionization Calorimeter (ATIC)の最新結果がNature誌(Nature 456 362)に掲載されたことを伝えている。結果からいうと、どうも標準的な理論予想とは反するピークが200−800GeV付近に見えたとのこと。しかも、このエネルギー近傍のピークは、超新星爆発由来のものや、パルサー星雲風*1や、マイクロクェーサー*2とは考え難いそうだ。理由は、例えばこれらの粒子線のエネルギーが600−700GeV以上は超えることは観測されていないとか、マイクロクェーサー由来なら近くにあるべき(1kpc以内)だけど観測されていないだとか、とにかくこれ程高エネルギーで鋭いピークを持つ粒子線のソースとなる天体現象はありそうにないと主張している。つまりは、ダークマターの確からしい兆候が見えたに違いないといいたいみたいだ。太陽系付近で起こったダークマター同士の衝突により、高エネルギーの電子と陽電子が生成されてそれがたまたま地球上に降り注いできたというシナリオを強く示唆する結果だと述べている。

上図が彼らの示した結果で、赤く塗りつぶした点がATICで得られた結果、実線が標準的な理論計算の結果。大体、200GeV付近から実線と離れだして、600GeV付近でピークが見られ800GeVで急激に減少している。確かに誤差棒を超えて有意にずれている。ちなみに青色のx印は同じく南極大陸で行われたPolar Patrol Balloon flightという観測結果*3。それで、興味深いのは、余剰次元モデルという素粒子現象論が予想するカルッツァ・クライン粒子をダークマターとして考慮すると結果を再現出来てしまうというのだ。

上図の実線が余剰次元モデルの予想。カルッツァ・クライン粒子の質量は650GeVとして手で入れてる。これだけの再現性は超対称モデルなんかではできないそうだ。超対称モデルの場合、電子・陽電子散乱が直接起こるのではなくウィークボゾンに崩壊しパイ中間子を介して生成される(グラビティーノがダークマターとした時)ので、ピークが広がってしまう。カルッツァ・クライン粒子では直接電子陽電子に崩壊できるのでピークを表すことが可能。更に、HEAT*4と呼ばれるPAMELA観測の従兄弟的観測の結果でも従来の理論予想からの食い違いが見られていたんだけど、それも同時に再現できてしまうというんで、結構熱狂的に受け入れられている。最新のPAMELA観測結果ではどうなのかは気になるところ。

ただ、”WMAP Haze”*5と呼ばれるWMAP観測で見られた正体不明の電波を説明するにはこのセットアップのほかに”boost factor”という工夫をしないとうまくいかない*6ということで、まあ眉唾かとも思えてくる。もちろん”boost factor”を説明するモデルも存在する(ブラックホールを導入すればいいのだ!)。この結果をもって余剰次元モデルの正当性を主張することは決してできないが、超対称モデルよりかは幾分優位に立っている気もしてくる。

記事に引用されている、Stephane Coutu氏のコメントは冷静だ。

The possible dark matter interpretation is exciting, but it may be quite some time before the smoke clears on this and a consensus emerges

*1:パルサーの超高速回転とその強磁場により相対論的速度まで加速された粒子線

*2:太陽質量の数倍のブラックホールからなる連星系。強い粒子ジェットやγ線を出すことが知られている。

*3:Torii, S. et al. High energy electron observation by Polar Patrol Balloon flight in Antarctica. Adv. Polar Upper Atmos. Res. 20, 52–62 (2006) 

*4:http://www.journals.uchicago.edu/doi/abs/10.1086/310706

*5:http://arxiv.org/abs/0705.3655

*6:予想されるcross sectionが200倍(!)小さすぎる