Cosmic-ray hot spots puzzle researchers

Cosmic-ray hot spots puzzle researchers : Nature News

前回に引き続き宇宙線観測に関する記事。今回はMilagroスペイン語でミラクルという意味)という、ロスアラモスにある高エネルギー宇宙線観測装置を使った観測結果を紹介している。この装置は神岡にあるニュートリノ観測装置「スーパーカミオカンデ」と同じような原理を利用している。スーパーカミオカンデは地下深くに5万トンの純水が入った巨大なプール(高さ41.4 m、直径39.3 mの円筒容器)に光電子増倍管(PMTs)を壁一面に配置して、ニュートリノが水中の電子と散乱することで生成される相対論的速度を持った電子が出すチェレンコフ光を観測することで、太陽ニュートリノや大気ニュートリノ観測、K2K(KEKto神岡)実験に利用されている。SN1987A超新星爆発により飛んできたニュートリノを観測したカミオカンデの後身装置でもある。チェレンコフ光は、光速に近い電子が媒質中の光より速くなることで発生する円錐状に広がる放射光のこと*1チェレンコフ光を観測することで、粒子が入ってきた角度やエネルギーを知ることができる。Milagro装置でのターゲットは高エネルギーの宇宙線(陽子線)が上空の大気粒子との衝突によって生じた粒子シャワーをもとにしたチェレンコフ光で、その観測によってオリジナルの宇宙線のエネルギーや入射方向を測定する。
上空から降り注ぐ粒子シャワーは陽子宇宙線のエネルギーによってその装いは変わってくる。比較的エネルギーが小さい場合(300GeV以下)、宇宙線との衝突によって生じた高エネルギーの粒子(パイ中間子など)が崩壊してγ線やμ粒子、ニュートリノとなり、そのγ線は大気中の電子と次々反応して*2平均で80MeV程度に達した後、粒子群(パンケーキ状態)として地上で観測される。これらの粒子群をPMTsを使って見るわけなんだけど、昼間だと太陽からのノイズが大きすぎるため、夜間の数時間しか観測できない。ただ、観測にかかるバックグラウンドは小さいため、エネルギーや入射角度を正確に測ることができる。一方、高エネルギー(50TeV以上)では、初めの衝突エネルギーが大きいために、エネルギーの減少が十分に行われずに高エネルギー状態のまま地上に降り注いでくるため、こちらでは逆に閾値を設けて高エネルギー粒子を捕える。そのため、一日中観測できるが、周辺の放射能源などのバックグラウンドが大きいというデメリットがある。

装置はそのため2重構造をしている。2段平面上に並んだ723個のPMTsは水中と水上に分かれて配置されていて、空気媒質によって生じたチェレンコフ光と、粒子シャワー内のγ線とを区別する。断面図は以下の感じ

解析の結果では、狭いピークを持つ高エネルギーの宇宙線源らしき領域が見えたという。ピークエネルギーは10TeV、つまりLHCの最大出力よりさらに2倍程度大きいエネルギーをもつ陽子が地球に到達したことになる。なぜこれほどのエネルギーを持つ宇宙陽子線が飛んでくるのか既存の結果から説明はできないそうだ。陽子は陽電子や電子のように電荷を持っているため、星間物質とのクーロン力を通した相互作用によって長い距離走ることはできない。そこですぐに考えられるのが高エネルギーの中性子が太陽系周辺で崩壊した場合なんだけど、その中性子が走れる最大距離約0.1pc(約0.33光年)の範囲内にそれらしい天体は観測されていない。超新星爆発由来か、近傍のパルサー(高速回転する中性子星)の強力磁場による加速もしくはマイクロクェーサーからのジェットともありえるが、観測による裏付けはない。

この状況はPAMELA実験に酷似している。PAMELAの場合、陽電子の超過が高エネルギー領域に現れた。陽電子も陽子と電荷は同じで質量が異なるだけなので、同じソースからなんじゃないかと疑われる。ただ、ダークマター問題の解決の糸口を探るうえでは、Milagro結果はネガティブだったりする。要は、ダークマター対消滅でこれだけの高エネルギー陽子線を説明できる自然な素粒子現象論モデルはありえないということ。しかしながら記事でもあるように、PAMELAで観測された陽電子と、Milagroと同じ放射源である物理的根拠はないし、それを裏付ける証拠もまだない。でも逆に考えると、PAMELAやATICのアノマリー観測が既存の天体現象である可能性は大いに残っているともいえる。この結果がどっちに転ぶかは両者の更なる観測と、別の実験結果によるクロスチェックを待つしかないように思う。

*1:JCO東海村事故で見えたといわれる青白い光も同じ

*2:カスケード現象という