自閉症とアスペルガー症候群を読む

自閉症とアスペルガー症候群

自閉症とアスペルガー症候群

自閉症というと、文字通り解釈すれば自らの殻に閉じこもって外界からの情報を遮断し続けている特異的病状を思い浮かべてしまったが、じつはその定義はかなり曖昧というのが近年の主に臨床的研究から明らかになってきている。自閉症患者と診断される多くの人は主に小児期の時点でその傾向を示しており、その症状も様々にある。一般に、臨床的調査などから自閉症患者の特徴として、

  • 対人コミュニケーション能力の欠如

 (他人の心的感情・情緒の認識能力の欠陥、限定的言語能力、アイコンタクトを理解できないや言葉を表面的にしか捉えられない、協調的行動がとれないなど)

  • 反復的運動

 (同じ動作を繰る返し行う。身体をパタパタさせる、必要以上の習慣的行動)

  • 強迫的行動・思考

 (異常的なまでに外部からの刺激に反応する。物の配置にいつまでも固執する)

  • 突出的能力

 (高度な機械的記憶力・計算能力。美術や図形、メカニックに対する高度な技術・技能や知識)
がいわれる。歴史的にはカナー(1943)やロター(1966)の小児自閉症研究から始まり、これは3歳までの健常児と比べて独特な性格的特長があることの臨床現場からの指摘により端を発する。精神分裂症や外部損傷による知能障害(自閉症患者の中にも一部含まれる*1)と比べて、早期の段階からその傾向が見られ環境的要因が少ない点、言語能力や数の概念、抽象的対象の理解は通常以上であるにも関わらず、突発的・破壊的行動や身体的能力の遅滞、話し方の不自然さや感情表現の欠陥、反復運動、人との非言語的コミュニケーションの不可、反語・隠語(メタファー)の無理解など主に社会生活を送るために必要な能力が極端に欠落している点が特徴的である。また、脳組織の器質的変質は一部報告されているが決定的原因箇所やその原因物質の特定にはいまだ至っておらず、遺伝的要因なのかすら明確に把握されていない。ただし、患者の家族構成を調べると多くの場合、父親もしくは祖父が自閉症もしくはその傾向を患っているという報告から一部は遺伝性のものとも考えられている。
自閉症患者は、話し始めは早期にも拘らず、文脈や接続子の誤謬、同じ文章や言い方を繰り返すなどの不自然さを伴い、年齢に比例した改善が見られない。彼らは他人(主に親や周りの大人)の発する言語の機械的模倣を行うが、他人のパーソナリティに対する関心や認識能力の欠如のために逆に自分を客観的に見つめることができないことが原因と考えられている。従って、他者との相互理解を行うことが出来ない、コミュニケーションが成り立たないなどの理由により孤立的状況に陥ってしまい、うつ病を併発してしまう人も少なくない。

ただ、自閉症に特徴的な機械的及び限定的能力を持った患者では、障害を補うだけの技能によりある程度の社会的地位(学者や技術士、音楽家、芸術家など)をえることも出来ているという。アスペルガー症候群というのはこういった高機能(高IQを持つ)自閉症患者の下位集団を指すことが多いが、明確な定義は曖昧なままだ。アスペルガーの研究以降、自閉症という病状には明確な区別がなく、連続体(スペクトラム)となって現れるものだという認識が広がりつつある。思えば、学者肌の人は往々にして他人の話を聞かない、自分ばかり話し続ける、社会的な暗黙の慣習に従わない、協調性の欠如など(ザッパに言えば周りの空気を読めない)の自閉症的な行動を伴ったりするから、どこまでが病的かの線引きは難しい。海外旅行者がとる行動や服装も、その国の人から見れば反慣習的に写るだろうし、極端な話、自閉症的とも受け取られるかもしれない。なにをもって自閉症と診断するかの基準は、社会的環境に依存している感もあり決めようがない気もする。

そもそも、自閉症患者の病状というのは実は興味対象がマイノリティに固着しすぎた結果、本来身につけるべき社会適応能力を獲得する時期を逸してしまっただけかもしれず、脳機能的な障害者という認識は誤りなのではとも考えられる。いわゆる健常者というのは親に始まり、友人や異性というように、他人へ興味対象が広がっていくことで、社会慣習や非言語的コミュニケーション能力を身につけるが、自閉症的な人はその対象が電話番号だったり鉄塔の識別記号だったりする。健常者はそういった社会生活にあまり意味を持たないマイノリティ対象は無意識的に記憶にとめないよう働きかけるが、アスペルガー患者などにとっては逆に重要な対象と写っているのかもしれない。静まり返って先生の話に耳を傾けている時突然大声を上げるのは、彼が周囲の雑音をまるでクラシック音楽のように集中しているのを中断されて不安になったのかもしれない。つまり自閉症というのはマイノリティな対象に強迫的に固執して修正が遅れた結果の姿なんじゃないかとも思った。

小児期に自閉症と診断されたとしても、適切な訓練により真っ当な社会生活を送ることは可能みたいだ。自閉症患者というのは、他人のパーソナリティに無関心でむしろ機械的な反復行動を好む傾向があることから、教育においても感情的にならず、厳格にスケジュールを守らせるように仕向けることで、かなりの改善が見込まれ、事実社会適応している人も数多くいる。自閉症に関する正しい認識が社会的に広まれば、彼らの持つ高い能力を発揮できる職場を広げ、科学技術の発展にも重要な要員になるのではとも思う。

*1:特に女子に多い。これは健全出産の自閉症患者には圧倒的に男子が多いことの特徴でもある