Journey to the Center of the Neutron


Physics - Focus: Journey to the Center of the Neutron
中性子電荷分布に関する最近のフォーカス。よく知られているように、中性子アップクォーク1個とダウンクォーク2個で構成される核子だけど、陽子と違って電荷はない。クォーク電荷は2/3(アップ)、−1/3(ダウン)なので合計ではゼロなんだけど、個々のクォーク核子内の分布は詳細には分かっていない。それは、クォーク間相互作用の一つである強い相互作用がもつ漸近自由性から、クォーク間距離が離れるほど強くなるため、クォークを単独で取り出そうとしてもグルーオンと呼ばれる強い相互作用を媒介するゲージボゾンが邪魔をして見えなくしてしまうから。正確にはグルーオン間の強い相互作用によって距離が離れるとエネルギーが上がるため、不確定性原理からの要請により真空から新しいクォークを作って、ハドロン(クォークのペアもしくはそれ以上で構成される粒子)として観測される。つまり中性子を分解してその構成を直接見ようとしても原理的に不可能なのだ。
ただし、核子内では逆に相互作用は弱いため3つのクォークがうようよと徘徊している。その分布は実験的には決定できないから、何らかの有効モデルを使って予想するのが常套手段。核子構造でよく用いられるモデルはパートンモデルが非常に有名で、かのR.ファインマンが気に入っていたもの。簡単には、クォーク描像ではなくパートンつまりパンケーキみたいな全体像で核子を近似して実験と合うような形にまとめ上げるとブヨルケンスケーリングやらクォーク閉じ込めなんかが不思議と説明できちゃうモデル。強い相互作用を記述するQCDを使えば原理的には説明可能なんだけど、なにせ伝家の宝刀の摂動論が低エネルギーでは使えないもんだから数値的に方程式を解いてやってシミュレーションするぐらいしか今のところ手はない。ただシミュレーション自体、現在のスーパーコンピュータを使ってもなお不定性が残ってしまっている。従って、核子構造の解析(スピン分布、電荷分布など)にはいまだにこのモデルに頼らざるを得ないのが現状。

ここであげている論文*1ではそのパートンモデルから中性子電荷分布の移動を見てみましたといっている。知られている中性子電荷分布は、中心は正の電荷があって外殻部分に負の電荷が覆っている、ということだったけど、高エネルギーの電子を入射すると負の電荷が中心部に移動して、これまでの予想とは逆の分布、中心が負、外側が正と予想している。ここ10年間、高エネルギー電子入射による非弾性散乱の結果から考えられた電荷の位置分布がそのまま使われてきていたんだけど、核子内の各クォーク(パートン)の運動量の大きさによって高エネルギーから低エネルギーに至るに分布も変化するということで、分布関数には位置の情報だけじゃなくて運動量も考慮する必要があるんじゃない、と論文では提起している。とどのつまりは、QCDに則った格子計算をやった結果しか信用できないということ。

*1:Phys. Rev. C 78, 032201(R) (2008)