Simple temperature change creates spin current

http://physicsworld.com/cws/article/news/36164
物性物理学の最近の話題を一つ。特定の向き(アップ・ダウン)に偏極した電子スピンの分離にこれまでより1万倍も長くすることに成功したという研究。英国物理学雑誌Nature誌の10月号に連載されている(Nature 455, 778)。first authorの内田という人の卒業論文だそうだ。ボスは慶応大学の斉藤専門講師。
内容は、20nmの薄膜に切ったNi81Fe19*1という強磁性体の合金基板上に2本の白金の細いワイヤーを6mmに張って両端に温度差をつけると、それぞれの方向に偏極した電子スピンをそれぞれ、温度が低いほうにはアップ、高いほうにはダウン、と両端に分けることが実際に出来たということ。温度勾配によってスピンが分離していく現象はSeebeck効果と呼ばれ、この原理を応用している。電子スピンが分離していることは両端の電位を測ると確かめることが出来る(スピンホール効果)ということで、実際に6mmの分離(これまでは銅線上で500nmが限界だったみたい)を実現できた画期的な成果らしい。この方式なら簡単にスピン電流(一定のスピンを持った電子で構成される電流)を得ることが可能となる。

応用としては最近注目を集める新技術であるスピンエレクトロニクスに期待されるそうだ。これは、メモリやハードディスクをより小さく且大容量にするためのキーとなりうる分野で、実際、磁気抵抗メモリやらレーストラックメモリとよばれる安価で超高速アクセス・大容量メモリがIBMをはじめ世界の名立たる企業が目下開発中とのこと。スピン電流を使うことで磁場のコントロールでビットの操作を高速に行うことができ、なおかつ安定しているためフラッシュメモリのように電源なしでビットを保存することが出来る。将来このスピン電流抽出技術はかなり重要になってきそうだ。

*1:Fe70Co30と共にハードディスクの磁気ヘッドに一般的に使われる素材