Fermilab 'ghosts' hint at new particles

http://physicsworld.com/cws/article/news/36514

少し古いけど、フェルミ国立研究所にある陽子反陽子衝突加速器(テヴァトロン)における新粒子発見か?という記事。実際のところは、新粒子に結びついているかもしれないイベントが見えたらしいというだけのことで、原論文アブストラクトには”Beyond the Standard Model”やら”New Particle”などという語句は一度も出ておらず、ひたすら技術的なことを述べるに留まっている。author数は200人を超えているんだけど、実は600人中の1/3が辞退したという紛糾を醸した1編。共同研究者の大半は結果の信憑性が低いと判断したということみたいだ。
テヴァトロンはLHCが動き出すまでは世界第一位の大型加速器だったんだけど、残念ながら現在まで新しい基本粒子*1は見つけるには至っていない(その他の、いわゆるエクゾティック粒子と呼ばれるメソン(2体粒子)やバリオン(3体粒子)より多くの数の粒子の共鳴状態である複合粒子を多数発見している。それはそれで重要な発見)。エネルギーはLHC加速器のおよそ1/10程度なので、ヒッグス粒子が100GeV程度の質量を持っていれば十分発見できておかしくないレベルなんだけど、衝突頻度(ルミノシティ)が足りなかったりして、イベントが見えていたとしてもその他のよく知られたイベントの中に埋もれてしまっている可能性は高い。LHCは世界最高のエネルギーをもつ加速器として一般には知られているが、じつはルミノシティもトップレベルなのだ(世界最高は筑波にある高エネルギー加速器研究機構が持つBeLL加速器)。テヴァトロンは反陽子を使っているため、どうしても反陽子側の粒子数(バンチ数)を保持するのが難しい。実験施設内は勿論のこと我々の住む地球自体普通の粒子で出来ているから、壁に触れたとたん光子になって消えちゃうんだな。エネルギー効率は非常に高いんだけど。

それで、彼らが見たといっているのは衝突後に様々な反応を経てでてくるミュー粒子数が摂動的QCDの計算等から予想される数よりも多かったらしい。CDFと呼ばれる測定器で捕らえた300万イベントのミュー粒子の中から逐一そのオリジンを辿っていき、イベントの発生が素粒子標準模型で考えられる反応かチェックしていった挙句、7万イベントがそのチェックから外れたため、新粒子の反応からなんじゃね?、ということを一部の急進派が唱えて論文にしちゃったという話。でもさすがに実験家なだけあって拙稿であったとしても、間違っても新粒子だのダークマターだのは言わないところはさすがだと思う。大半の現象論屋のように何かにつけてダークマター候補だのブラックホールだの、はては余剰次元だブレーンだと恥ずかしげもなく誇張広告する人たちと比べてなんと紳士的なことか(良識的ともいうべきか)。こういった慎重な態度は見習うべきだと思う。

ただ、クロスチェックとしてD0と呼ばれるもうひとつの検出器やLHCで確認できたら、それこそ注目に値する結果ということになるため、別になんら意味のない結果というわけじゃない。こういったペンディングになっている実験結果は素粒子の世界では結構残っている。それでいても標準模型を完膚なく潰すような結果ではない。そういう意味で35年以上も素粒子物理で生き延びている標準模型は非常によく出来たもんだ。