Excess of electrons could point to dark matter
http://physicsworld.com/cws/article/news/36739;jsessionid=B1166B217EA36775C60F582033CB6A5F
先日紹介したPAMELA観測とはまた別の宇宙線観測によるダークマター探索の結果の紹介。今回は、南極大陸において高エネルギー(数百GeVから数TeV)の電子線を捕らえてそのスペクトラムを調べる、Advanced Thin Ionization Calorimeter (ATIC)の最新結果がNature誌(Nature 456 362)に掲載されたことを伝えている。結果からいうと、どうも標準的な理論予想とは反するピークが200−800GeV付近に見えたとのこと。しかも、このエネルギー近傍のピークは、超新星爆発由来のものや、パルサー星雲風*1や、マイクロクェーサー*2とは考え難いそうだ。理由は、例えばこれらの粒子線のエネルギーが600−700GeV以上は超えることは観測されていないとか、マイクロクェーサー由来なら近くにあるべき(1kpc以内)だけど観測されていないだとか、とにかくこれ程高エネルギーで鋭いピークを持つ粒子線のソースとなる天体現象はありそうにないと主張している。つまりは、ダークマターの確からしい兆候が見えたに違いないといいたいみたいだ。太陽系付近で起こったダークマター同士の衝突により、高エネルギーの電子と陽電子が生成されてそれがたまたま地球上に降り注いできたというシナリオを強く示唆する結果だと述べている。
The search for genome 'dark matter' moves closer
The search for genome 'dark matter' moves closer : Nature News
ゲノム塩基配列中の1塩基に、サンプル内で1%以上の頻度の違いが現れる時のことを一塩基多型、SNPs(Single Nucleotide Polymorphism)という。この違いが例えば酒に弱かったり(酒酔い遺伝子(アルデヒド脱水素酵素)のSNPs)、肺がんに罹りやすかったりする(p53遺伝子のSNPs)ことが、最近のゲノム解析の結果わかってきている。SNPsの数は、被験者のサンプル数が多くなればなるほど数多く発見されていて、いまやヒトゲノム1000塩基中に1つの割合で見つかっている。また、このSNPsが数多く分かれば個人に適した『オーダーメイド医療』の実現に前進することに繋がり、ヒトゲノム解析の次世代プロジェクトとして国際的に立ち上がっている。the 1000 Genomes projectは各人種のゲノムサンプル1200人分を集めてそのすべてを解析してSNPsや突然変異を調べることを目的として1990年代からスタートしており、今年中に全解析が終了すると記事では伝えている。
PAMELA bares all
http://physicsworld.com/cws/article/news/36534
2006年6月15日にロシアのロケット”ソユーズ”と共に打ち上げられ、2009年12月まで観測予定の宇宙放射観測衛星PAMELA(Payload for Antimatter Matter Exploration and Light-nuclei Astrophysics)の観測結果の全体像がようやく明らかにされたという記事。この衛星、イタリア・ロシア・ドイツ・スウェーデンが共同開発した広範囲の粒子(電子・陽電子)のエネルギー分布を測定可能な特殊装置を搭載した観測衛星で、ターゲットは主に素粒子物理や宇宙物理で広く話題になっている、宇宙の物質構成の25%を占めると目されてる暗黒物質(ダークマター)の間接的証拠を得ること。これまでは銀河内の恒星軌道と電波観測のギャップから、どうも光では捉えられないダークマターなるものが銀河周辺を取り巻いているらしいということは言われてきたんだけど、PAMELAのような衛星を用いて粒子測定をする本格的観測は初めてということで、かなりの期待が持たれている。それで、最近になって信頼性の高いダークマターの存在の兆候が見れたかも知れないという噂が巷で広がっていただけに、専門家はその詳細を心待ちにしていた結果発表だった。
Fermilab 'ghosts' hint at new particles
http://physicsworld.com/cws/article/news/36514
少し古いけど、フェルミ国立研究所にある陽子反陽子衝突加速器(テヴァトロン)における新粒子発見か?という記事。実際のところは、新粒子に結びついているかもしれないイベントが見えたらしいというだけのことで、原論文のアブストラクトには”Beyond the Standard Model”やら”New Particle”などという語句は一度も出ておらず、ひたすら技術的なことを述べるに留まっている。author数は200人を超えているんだけど、実は600人中の1/3が辞退したという紛糾を醸した1編。共同研究者の大半は結果の信憑性が低いと判断したということみたいだ。
尿素海洋汚染
Urea pollution turns tides toxic : Nature News
ヒッチコック監督のホラー映画”The Birds”(1963年)には数々の鳥が人間を襲うシーンが描かれているが、現実にも大量の鳥が一晩に現れたという現象があった。それは1961年8月16日のアメリカはカリフォルニアでコウノトリの1種であるハイイロミズナギドリが次々と屋根の上に落ちてきて、道は鳥の死骸で埋め尽くされたそうだ。この奇妙な現象はドウモイ酸という駆虫剤の一つとして使用されるアミノ酸が原因と推定される。このドウモイ酸は日本の醍醐皓二って人が1958年の徳島県で最初に発見・精製したんだけど、効果としては主に神経系及び中枢系に作用して重度の記憶障害や麻痺を引き起こす。これはドウモイ酸が脳内にあるニューロンのレセプターに働きかけることで興奮状態が永続し細胞が死滅してしまうためだという。ドウモイ酸はもともとハナヤナギという藻類から取り出された物質で、この種の藻類が開花するときにこの毒物質が放出されて、その毒を貝類やそこを偶然通りかかった魚に吸収・蓄積され、それを食べた鳥が中毒症状を起こしたというわけ。
High-Energy Collision of Two Black Holes
今週のPRL:Phys. Rev. Lett. 101, 161101 (2008)
2つの相対論的速度で衝突するブラックホール(BH)から放出される重力波のエネルギーに関する数値計算の論文。
これまで知られている2つのBHが相対論的速度(光速の96%)で衝突した際に放出される重力波のエネルギーはトータルエネルギーの29%という上限値がホーキング*1及びペンローズら*2によって課せられていたが、著者らの数値シミュレーションの結果はそれよりもファクター2だけ小さい14%となったとのこと。この結果は、しかし、摂動的解析結果*3とは一致している。ペンローズらは最も単純なアインシュタイン方程式の解であるシュワルツシルトブラックホールを用いたフラット時空上の計算だが、彼らの数値計算では時空の動的な時間発展を導入した結果であるため信頼性は高いと主張している。ただし、この論文でもある程度の近似を取り入れていて、BHのスピンと電荷を無視しているし、衝突は重心同士の正面衝突(インパクトパラメータはゼロ)のみでかつ2つのBHの質量は同じとしている。
著者の主張するところは、LHCで超微小なBHが出来た場合に予想されるエネルギーロスの評価にペンローズらの主張を取り入れてしまっているが、実は過大評価している可能性があると警告するもの。しかし、このエネルギーロスはヒッグスの2γ崩壊と混ざってしまってファクターの違いだけじゃ結局区別できないじゃないかと思ったりもする。そもそも2γ崩壊の測定では新粒子の断定は困難と予想されているので、彼らが正しいにしろ間違っているにしろLHCでBHを探索することはほぼ不可能であることには間違いはない(根本的な問題点として彼らは量子効果を取り入れていない!)。最後のLHC云々は蛇足ですな。
*1:Phys. Rev. Lett. 26, 1344 (1971).
*2:Phys. Rev. D 66, 044011 (2002).
*3:Phys. Rev. D 46, 694 (1992).